今週は、ナット・キング・コールのスマイルです。スローな曲でナット・キング・コールの包み込むような優しい声が心地よいですね。
黒人差別の真っただ中、アラバマ州モントゴメリー出身。牧師の父と教会のオルガン奏者の母のもとに生まれました。その後、当時のジャズのメッカ、シカゴに引っ越します。子供のころから母にピアノを習い10代でピアニストとして活動を始めます。本人は歌手になるつもりはなかったそうなのですが、出演していたクラブの客からのたってのリクエストで歌うようになりました。クラブの客というと、酔っ払った客に紙の冠を被せられてからキングと言われるようになったんだそうです。
スタンダードナンバーを如何に個性的に歌うかがジャズ歌手の腕の見せ所なんですけれど、温厚な性格をあらわすような深みがあって腰のある声に加えて、適格な音程、リズム、癖のない発音が人気となりました。
その人気は音楽だけに留まらず、40歳でテレビの冠番組を黒人で初めて持つことになりました。
しかし、タバコが大好きだったこともあり、45歳の若さで肺がんで帰らぬ人となりました。
そのとき14歳だった娘のナタリー・コールは父のような歌手になると誓ったそうです。そして、1991年、父の音源にダビングする形でデュエットしたアンフォゲッタブルを歌いましたグラミー最優秀レコード賞など3賞を獲得しました。
スマイルは、もともとは喜劇王チャップリンが作曲したもので映画モダン・タイムズのエンディングで使われたインストゥルメンタルの曲に後年歌詞を付けたモノです。エリック・クラプトン、ジュディ・ガーランド、マイケル・ジャクソン、ダイアナ・ロス、スティーヴィー・ワンダー、ロッド・スチュワートなど多くの人がカバーをしています。日本でも雪村いづみ、MISIA、由紀さおり、上白石萌音など歌うま歌手がカバーしています。美空びばりが超リスペクトしていたことでも有名ですね。
スマイルという言葉とは裏腹に、なんだかとても悲しそうな曲でもありますよね。
原曲となったチャップリンのモダンタイムスは、資本主義社会で人間の尊厳が失われ、人が機械の一部分のようになっている世の中を皮肉る内容です。毎日毎日工場で同じ作業を続ける毎日に嫌気がさしたチャップリンは共産主義者と間違われて投獄されてしまいます。模範囚として出所し、孤児の女の子と出会います。何をやってもうまくいかず、いっそ刑務所に戻りたいと思い彼女の罪を被ろうとするのですが、それもバレてしまいます。彼女の方はというと、一度は夢に見たダンサーになるのですが過去の過ちが原因で警察に追われます。二人で逃げ出して、道路に座り込んで途方にくれます。そんな場面で流れるのがこの曲です。
やっと手に入れたささやかな幸せさえも許されない、無情な現実をつきつけられて泣き出す少女。そして、チャップリンは諦めずに強く生きればきっといつか報われると励まし、その言葉に元気づけられます。
原題社会の冷酷さと束縛に囚われない自由を求めて二人は歩き始めるという内容です。
だから、このスマイルは物悲しいメロディとは裏腹に、「ほら、元気を出して!笑ってごらん!」とやさしく包み込むように歌われているのです。
この曲、共産主義に傾倒したことからアメリカを追放されたチャップリンが20年の時を経てアカデミー賞授賞式に再入国したとき、オスカー像授与のときに会場のゲスト全員で合唱されたそうです。