今週はテレヴィジョン (Television) のマーキー・ムーンをお届けします。テレビジョンは1973年にニューヨークで結成されました。アメリカン・パンク/ニュー・ウェイヴの元祖と言われているバンドなんですが、パンクというよりはアバンギャルドな印象の曲が多いバンドです。リーダーは先月亡くなったトム・ヴァーレインです。文学的な歌詞や、しゃがれ声と緊張感があるヘタウマ演奏でインテリ・サウンドとも言われたバンドです。ニューヨークのダウンタウン、芸術家の街、グリニッジ・ビレッジあたりを活動拠点にしていました。
当時のニューヨーク音楽シーンはキッスの元祖、ニューヨーク・ドールズ、ラモーンズ、ブルー・オイスター・カルトなどがいた時代でした。今日の曲、マーキー・ムーンは1977年2月のファースト・アルバム『マーキー・ムーン』に収録の超長い曲です。
とにかく曲が長いので曲に行きましょうか。
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俺は覚えてる 暗闇をもっと暗くする方法を
稲妻が貫いたときのことを思い出すんだ
俺は雨の音を聞いていたんだ
雨の音を聞きながら、何か他の音を聞いていたのさ
蜂の巣の中の生活ってのは窮屈で夜にどっと疲れるもんなのさ
キスは死の世界への誘いであり、それはまた生の世界での抱擁でもあるんだ
俺は天幕に描かれた月の下でただ待っている
道すがら見かけた男に、正気を保つ方法を尋ねたんだ
彼は、「いいかい、幸せだと思い過ぎないことだよ。
そしてもっと大事なのは悲観的になりすぎないことさ。」
キスは死の世界への誘いであり、それはまた生の世界での抱擁でもあるんだ
俺は天幕に描かれた月の下でただ待っている
躊躇(ちゅうちょ)しながら
キャデラックがあの世から走ってきた
側に止まり、「乗りな」って声を掛けられた
そしてキャディラックはまたあの世へと戻ったのさ
そして俺はキャデラックから降りたのさ
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マーキーとは、劇場の入口に張り出した庇(ひさし)のことで、そこには上演されている演目が描かれているんですね。そこに描かれた月のことを題材に、NYの街で生きる人生の歌なんだと思います。キャディラックは言わずと知れたアメリカの最高級車で成功者の証なんですが、成功するために命を削ることの儚さみたいなものを歌っているのかなぁと思います。ニューヨークってホントに目まぐるしいくらい色々なことが刻一刻息つく暇もなく起こっている街なんです。そこで生活するためには少し鈍感にならないと疲れちゃうのかも知れません。ボクは日ごろ前橋の人はもっと感情の起伏を持った方がいいと唱えているのですが、それはニューヨークと比べて刺激が少ないからそう感じているのかも知れません。
さて、この曲、みなさんのパンクのイメージでしたか?
ニューヨークのパンクは、セックス・ピストルズに代表される同じ時期のイギリスの攻撃的なパンクとはちょっと違って、パンクというよりはニューウェーブっぽい雰囲気があると思います。アメリカでパンクと呼ばれている音楽は、イギリスのようにツンツン頭でよろよろした姿勢で攻撃的に歌うのではなく、ニューウェーブっぽかったり、グラム・ロックっぽかったりとちょっと趣が異なるところがあるんですね。
一方で、このバンドのベースのリチャードは芸名をリチャード・ヘル(地獄)と言うんですが、こういう芸名は、ピストルズの二枚看板、ジョニー・ロットン(腐れジョニー)やシド・ビシャス(悪童シド)に通じるところもあります。