今週はベルベット・アンダーグラウンドのI’m waiting for the man(ボクは待ち人)をお届けします。
ベルベット・アンダーグラウンドは、1964年結成のニューヨークのロックバンドです。
リーダーで作詞担当のルー・リードは、ブルックリン出身のユダヤ系。作曲担当はウェールズ人のジョン・ケイルを中心にしたパンク、オルタナの始祖のバンドです。バンドとルー・リード個人はロックの殿堂に入っています。前衛的でありポップでもあり、ルー・リードによる陰翳(いんえい)で知性的な歌詞によって綴られる物語は同性愛やSMなどの性におけるタブーや、ドラッグといった人間の暗部を深く鋭い描写を、ジョン・ケイルの前衛的かつ実験的なサウンドに乗せて奏でられます。同世代のデヴィッド・ボウイやドアーズや、先日ご紹介したパティ・スミスやテレヴィジョンなどに影響を与えたとされています。バンド名はルーがたまたま手にした本のタイトルからつけたそうです。
今日の曲は1967年3月リリースの1枚目のアルバム「ベルベット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ」に収録されています。このアルバムはアンディ・ウォーホルによるバナナの絵のジャケットで知られ、バナナ・アルバムとも呼ばれています。ビレッジでの活動を通じて知り合ったウォーホルにバックアップされて発表することができたのですが、サポートの条件としてニコが参加することになりました。ブライアン・イーノは音楽誌のインタビューで「このアルバムを買った3万人全員がバンドを始めた」と語ったそうです。
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俺はヤツを待っている
26ドルを握りしめて
レックスと125丁目の角だ
ヤクが切れて気分はサイテーだ
早く来いよ
(註: 悪そうなハーレムの人)ヘイ、そこの白人のボーヤ、ハーレムで何してんだい
まさかこの辺の女を引っかけようとしてるんじゃないだろうな、あんちゃん?
(註: ちょっとビビッて)違う、違う、そんなつもりは全然ありませんよ
俺はただ親友を待っているだけです
遅(おせー)なぁ
俺はあいつを待っている
ヤツがやっと来た
黒づくめに麦わら帽子、それに尖がったエナメル靴
ヤツは時間通りに来た試しがない
いつも待たされる
ヤツと取引したいなら、まず待つことを覚悟するってことさ
長屋の三階
ヤツの家(ヤサ)には先客が何人かいた
俺が入って行くとみんなが見たけど
みんな俺のことは気にしない
これがヤツの仕事だからね
みんなを気持ちよくする仕事さ
おっとここに長居はできない
騒ぐなってば!泣きわめいたりすんなよ
あぁいい気分になってきた
お~いぇ~トリップするぜ
あしたまで
そんな束の間の幸せでいいのさ
さて、家に帰ろう
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要するにハーレムにドラッグを買いに行ってドラッグを決めていい気持ち~
でも長くは続かない
っていう歌です。
歌詞の冒頭に出てくる待ち合わせ場所のレキシントン・アベニューと125丁目の角というのは地下鉄の駅があるだけで他には別に何もないんですが、この駅が開業したことにより駅周辺、イーストハーレム地区は発展していったとされています。よって舞台はイースト・ハーレム=スパニッシュ・ハーレムです。ハーレムの中でも一番やばい地区といっていいと思います。
ですからそこに登場するのは黒人ではなくプエルトリコ人の売人なんですね。麦わら帽子に先のとんがったエナメル靴、黒装束は当時のブエルトリコ人のおっかない人の定番だったみたいです。
マンハッタンの街は南北にアベニューと呼ばれる大通りが走り、東西にはストリート(日本語では丁目って呼んでます)と呼ばれる細い道が通っています。アベニューにはお店が、ストリートにはアパートがあるイメージで、ストリート側は繁華街でも結構薄暗いんです。ドラッグの売買っていうのはそういうアベニューとストリートの角の薄暗いところで行われることもあるんですね。
ボクは一度マンハッタンのど真ん中で警察の麻薬売買摘発(ドラッグ・バスト)を見たことがあります。夜タクシーでストリートを走っていると、いかにも怪しげな真っ黒のワンボックスが停まっていて、そこから急に何人もの武装警官が一斉に飛び出してきてビルの壁にもたれかかっていたディーラーと麻薬常習者を舗道に勢いよく押し倒して捕まえてました。おぉぉぉすげーーーって感じで見てました。
ハーレムは怖いイメージがどうしても付きまといます。2000年ころまでは銀行の支店はハーレムにはほとんどありませんでした。マンハッタンでは東京と同じくらい、大きな交差点ごとに銀行があるんですけど、ハーレムにはなかったんです。スターバックスもアメリカのそこらじゅうにあるんですけど、タイに住んでたときなんてボクの家から歩いていける範囲に10軒あったんですけど、ハーレムにスターバックスができたのは96年の東京・銀座の日本1号店オープンより遅い1998年で、NBAのレイカーズのマジック・ジョンソンがオーナーのフランチャイズ店舗だそうです。
要するにおっかないから寄りつけなかったわけです。
そんなハーレムも黒人のオバマ大統領の黒人プロフェッショナル雇用増加政策によって主に西側のブラックハーレムは再開発が進んでいると言われていて、昔よりは怖くなくなってきているそうです。